あこぎびとShow

頼んだよアンパンマン

音のない世界

一見矛盾してそうな言葉。
この間ふと頭に浮かんだ言葉。
検索してみると意外に沢山Hitして、その中で1つ面白いのがあったので完全貼り付けで紹介します。






◇「音のない世界」






その世界は全く音が存在しない世界であった。


ある日、この世界の予言者が世界の行く末を予言したからだ。その年老いた老婆は、不適な笑みを浮かべながらこう囁いたという。


「この世界は、不幸な世界だ。音さえ無かったら、この世界の人々は苦しみも痛みも悲しみも感じぬまま幸せに暮らせただろう。あぁ、なんて事だ。音さえなければこの世界は救われるのに……」


予言者はそう囁いて人々の前から姿を消したのだった。


勿論、人々はこの予言を信じてはいなかった。音がない世界など想像した事もなかったのだ。人々は、予言者を気違いの老婆だと嘲笑った。


しかし、予言者が他にも残した予言は次々とこの世界を襲っていった。


時に、満月が赤色に染まり何処からか聴くに堪えない高い音が人々を襲い、地面は奇怪な音をかしゃかしゃと立てて人々に眠れない日々を送らせた。


やがて、人々はその災いに次第に気が変になっていった。こんな音さえなかったら……そう、何時しか人々は音という存在が無くなる事を願っていった。


この音をどうにかしようと、学者は研究者は音の消去について研究し始めるしかなかった。人々の悲痛の叫びに、彼等は遂に音を全て吸収してしまう装置を作り出したのだった。


この装置は、音が出ると人々の耳に入る前に察知しその音自体を大きなタンクに詰め込んでしまうのだった。このタンクは、音が一杯になると、新しいタンクへと交換する事ができた。勿論、一杯になったタンクは開ける事は出来ないから世界で一番大きな倉庫に溜め込む事にしたのだ。


人々は大喜びでその装置を世界中で作動し始めた。


そして、この世界から一切の音が無くなった。無論、話し声も聞こえず、梢のざわめく音も、水の流れも・鳥の美しい鳴き声も聞こえはしない。だが、人々を散々苦しめていた音も無くなり、人々は安心して眠る事が出来るようになった。




彼等は会話が出来ずとも、文字でやり取りをする事が出来たからだ。彼等は、平和で穏やかな日々が続く事を望んでいた。だが、音のない世界には大変な問題があったことを人々は忘れていた。


何百年も立った音のない世界は、段々この世界が何故こうなったかを知る者が居なくなっていた。なぜなら、文字を読む事の出来ない人々が増えていたのだ。


長い年月を過ごしたこの世界の人々は、文字を使う事を忘れ、身振り手振りだけに頼った会話をする事となったのだ。


タンクを取り替える仕事をしている人間でさえ、何故タンクのメーターが赤くなったら取り替えるのか分からなかったのだ。


やがて、人々は大きな倉庫にためられたタンクの山に興味を示すようになっていた。何故、このタンクはあるのか。何故、こんなに沢山あるのか。人々は好奇心に駆られ、タンクの中身を自分の家に持って帰るようになってしまった。




ある若者が人々にこうサインをした。


『みんなで一斉にこのタンクを開けてみようじゃないか』


反対する者などいるはずもない。この世界の人々はこのタンクが何なのか知りたくて堪らなかったのだ。人々は、赤い満月がてっぺんに昇ったら一斉にタンクの蓋を開ける事を誓った。








血のような満月が段々と昇っていくのを、人々は心躍らせながら見守っていた。皆、蓋を開けたいと思う事に夢中で、どうして今まで人々がこのタンクを開けなかったのか、疑問に思う者は誰もいない。いや、思いもしないのだろう。


今や人々の期待と興奮は最高潮に達していた。







月はとうとうてっぺんに昇った……。








人々は、遂にその蓋を開けてしまったのだ。



そのタンクから飛び出したものは何億いや、何兆もの音が凝縮された凄まじい騒音だったのだ。しかも、何百年分もの音が一気に解放されたため、地鳴りが起き、山は崩れ、海は荒れる程の音だった。


その音はどんな言葉でも言い表す事の出来ないものであった。人々はその音を聞いた途端に口から泡を吹き出してバタバタと死んでいく。この音を聞いて生き残れる生物などこの世界には存在しなかった。




タンクの音は、それでも鳴り響き続けた。その音は、この世界だけでなく他の世界にも鳴り響いていたと言う。


やがて、全ての音を出し切ったこの世界は、恐ろしく静かな世界へと戻ってしまった。鳴り響いていた音の所為で、音を無くす装置は全て壊れてしまった。だから、この世界には音が戻ったはずだった。


だが、あの音はこの世界の生物全てを殺してしまった。そして、大気までもを吹き飛ばし風も吹く事がない。無論、水など存在するはずもない。


音の無い世界は、本当に音のない世界になったのだ。それが、幸せなのか不幸なのかは誰にも分からない。少なくとも、苦しみや悲しみが無い事は確かだ。そんな事を感じる者は、この世界にはもう存在しないのだから……。






そして、また音を無くそうとする世界は絶えることなく増えていく。


何故なら、昔音を無くそうとした世界の騒音に、また別の世界が音を無くそうとするからだ。


音が無いのが幸せか不幸かそれは彼等が決める事。






おかしな話がおかしいか?
それは、読んだ貴方が決める事。




おしまい